2015年10月06日
梶田隆章氏ノーベル賞受賞
物理学賞に梶田氏:ノーベル賞 ニュートリノ質量を実証
毎日新聞 2015年10月06日 18時54分(最終更新 10月06日 19時00分)
梶田隆章さん

スウェーデンのカロリンスカ研究所は6日、今年のノーベル物理学賞を梶田隆章・東京大宇宙線研究所長(56)ら2人に授与すると発表した。授賞理由は「ニュートリノ振動の発見」。素粒子のニュートリノに質量があることを実証した功績が評価された。
日本からの受賞は、5日の大村智・北里大特別栄誉教授(80)に続き2日連続。米国籍の南部陽一郎氏(08年物理学賞)、中村修二氏(14年同)を含め24人となる。
授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金800万スウェーデンクローナ(約1億1500万円)が贈られる
毎日新聞 2015年10月06日 18時54分(最終更新 10月06日 19時00分)
梶田隆章さん

スウェーデンのカロリンスカ研究所は6日、今年のノーベル物理学賞を梶田隆章・東京大宇宙線研究所長(56)ら2人に授与すると発表した。授賞理由は「ニュートリノ振動の発見」。素粒子のニュートリノに質量があることを実証した功績が評価された。
日本からの受賞は、5日の大村智・北里大特別栄誉教授(80)に続き2日連続。米国籍の南部陽一郎氏(08年物理学賞)、中村修二氏(14年同)を含め24人となる。
授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金800万スウェーデンクローナ(約1億1500万円)が贈られる
2015年10月06日
大村智氏ノーベル賞受賞
大村智氏ノーベル賞

医学生理学賞 熱帯病特効薬を開発
伊東で発見 微生物から生成
【大村智氏(おおむら・さとし)1935年7月12日、山梨県韮崎市生まれ。山梨大を卒業後、都立墨田工業高定時制で5年間教師を務めた。東京理科大大学院修士課程を経て、63年に山梨大助手。東京大で薬学博士、東京理科大で理学博士を取得し、75年に北里大教授。2001年に北里生命科学研究所長、07年に名誉教授、13年に北里大特別栄誉教授。1989年上原賞、97年コッホ・ゴールドメダル、2014年カナダ・ガードナー賞の国際保健賞など受賞。文化功労者、80歳。(共同)】
【ストックホルム共同】スウェーデンのカロリンスカ研究所は5日、2015年のノーベル医学生理学賞を、アフリカなどで寄生虫が引き起こす熱帯感染症に大きな治療効果を挙げた特効薬を開発した大村智.北里大特別栄誉教授(80)ら3人に授与すると発表した。途上国を中心に年間3億人に投与され、人命を救う薬の発見が最高の栄誉に輝いた。
日本人のノーベル賞受賞は2年運続で23人目。医学生理学賞は12年の山中伸弥京都大教授(53)以来となる3人目の快挙で、日本オリジナルの研究成果が高く評価された。
大村氏は共同通信の電話インタビューに「微生物のすごい能力を何とか引き出そうとしてきた。何か一つでも人のためになることができないか、いつも考えてきた」と喜びを語った。
受賞が決まったのは大村氏と米ドリュー大のウィリアム・キャンベル博士、中国中医科学院の屠ゆうゆう博士の計3人。大村氏とキャンベル氏は同じテーマの共同受賞で、屠氏は抗マラリア薬の発見が授賞理由となった。
大村氏は、伊東市のゴルフ場の土壌で見つけた細菌の作り出す物質が、寄生虫に効果があることを発見。1973年から米製薬大手メルクと共同研究し、その物質をもとに薬剤「イベルメクチン」を開発した。
この薬は、重症の場合に失明することもある熱帯病のオンコセルカ症(河川盲目症)や、リンパ系フィラリア症(象皮症)の特効薬となり年間3億人が使用。世界保健機関(WHO)は、2020年代にいずれも撲滅できると見込んでいる。
日本でもダニが原因の疥癬(かいせん)症や、沖縄に多い糞(ふん)線虫症などの治療に威力を発揮している。
授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金800万クローナ(約1億2千万円)の半分が屠氏に贈られ、もう半分を大村氏とキャンベル氏が分ける。
貧しい人々失明から救う
世界の保健衛生の向上
大村智・北里大特別栄誉教授(80)が見つけた化学物質をもとにした抗寄生虫薬「イベルメクチン」は、アフリカや南アジア、中南米などで寄生虫による失明の危機におびえる人々を救った。最も貧しい地域の人々に「革命的な治療法」をもたらし、世界の保健衛生を向上たらしに大きく貢献した。
失明をもたらすこともあるオンコセルカ症(河川盲目症)は、ブユなどが媒介するミクロフィラリアという寄生虫が原因だ。大村さんはこの寄生虫を殺す化学物質をつくる微生物を、伊東市にあるゴルフ場の土の中から見つけた。
1㌘の土には1億種類を超える微生物がいるとされる。大村さんは「ほしい物質をつくる微生物が必ずいる」との信念で数千もの微生物コロニーを培養。共同受賞が決まったウィリアム・キャンベル博士が、製薬大手メルクで有望物質を抽出し、特効薬が開発された。
年1回飲むだけで効く手軽さも手伝い、オンコセルカ症は2020年代に撲滅される見通しだ。皮膚が硬く変形するリンパ系フィラリア症(象皮症)や皮膚の病気の疥癬(かいせん)など、寄生虫が原因となる多くの病気に有効。年間3億人が服用しているとの試算もある。大村さんは微生物がつくる有用な化学物質を500種類近く発見。20種類以上が薬などとして使われている。
大自在
「ほしい物質を作る微定物が必ずどこかにいる」。常にこのことが頭にあったのだろう。30代で当時、北里研究所の研究員だった北里大特別栄誉教授の大村智さん(80)は、伊東市の名門ゴルフ場川奈ホテルGCの近くから採取した土を、研究室に持ち帰った▼1974年、この土から寄生虫に効果がありそうな化学物質を作る微生物が見つかった。共同研究相手の米薬品大手の動物実験で、物質の効果が裏付けられた。これをもとに動物用の抗寄生虫薬「イベルメクチン」が開発され、世界的ヒット商品となる▼さらにアフリカや中南米の人々が失明する大きな要因だった熱帯病「オンコセルカ症」にも有効と判明した。年に1回飲むだけで効く。他の病気と合わせると年間3億人がこの薬を服用しているとの試算もあるそうだ▼スウェーデン・カロリンスカ研究所は、2015年のノーベル医学生理学賞を大村さんに授与すると発表した。日本人の医学生理学賞は12年の山中伸弥京都大教授以来3人目。日本オリジナルの研究成果が今回も高く評価された▼高校教諭から研究者となった。都内の工業高校定時制で、手に油を付けたまま授業を受ける生徒を見て心を動かされ、昼と土日は大学院で学び研究の面白さに引き込まれたという▼発見、命名した476種類の化学物質は、頭文字がAからZまでそろう。26種類が薬などとして使われる。特許は国内外250件以上。「自分が偉い仕事をしたとは思っていない」。すべて微生物がやっただけと会見ではにかむ。こん姿もまた誇らしい。(2015・10・6)
伊東の土、栄誉の礎

「微生物の力を借りているだけ。私が賞をもらっていいものか」。ノーベル医学生理学賞受賞が決まった北里大特別栄誉教授大村智さん(80)は5日午後8時半ごろ、東京都港区の北里大で記者会見。総立ちの学生から大きな拍手が起こり、フラッシュを浴びると「こんな賞をいただいていいのかな」とはにかんだ笑顔を見せた。
「微生物の力」強調
異能の人、謙虚に喜び
威張らず、声を張り上げず、謙虚な人柄を感じさせる静かな語り口。「微生物が:」「先輩たちが」と何度も感謝を表した。明るいグレーの上着にネクタイ、細い金縁の眼鏡。なかなか緊張がほぐれず、マイクを手に「初めてなのでどうしていいのか分からない」とつぶやくと、ようやく笑顔になった。
受賞決定の知らせは予想外だったようだ。午後4時半には帰宅する予定だったが、秘書が帰ろうとしない。「予感がしたのか、待つように言われた」ところに、スウェーデンからの国際電話が鳴つたという。最初に報告した。人を問われると「心では今はなき家内。研究者として一番大変なときに支えてくれた」と答えた。長女の育代さん(42)には「びっくりした。まさか取れると思っていなかった」と電話で報告したという。喜びを語るうちに表情が緩み、口調も滑らかになった。
自分の研究人生を「何か役に立つことはないかと絶えず考え、人の役に立つことをやりたいと思っていた」と振り返る。「めちゃくちゃ本を読んだ。全体の流れをいつもつかんで研究を進めた」と自負ものぞかせた。
土採取から特効薬
寄生虫が原因の熱帯病の特効薬となる物質「エバーメクチン」を作り出す微生物がいたのは、伊東市川奈のゴルフ場で採取した土の中だった。「年間2千~3千株もの土を採取する」という大村智・北里大特別栄誉教授は会見で「いつでも土が.採取できるよう、今でも財布の中にはビニール袋がある」と"臨戦態勢"を強調した。
仲間と訪れたそのゴルフ場で土を採取したのは1970年代の半ば。研究を重ね、エバーメクチンの発見.開発に至ったのは土の採取から約5年後だった。採取、培養、分析の繰り返しという地道な作業が実を結んだ。
膨大な作業は、「1人でできる研究ではない」。仲間に恵まれて一いた環境に大村教授は感謝の言葉を繰り返した。
「とても光栄」
ゴルフ場関係者
伊東市の川奈ゴルフ場の土壌で見つかった細菌からの発見が、大村智氏のノーベル賞受賞につながり、同ゴルフ場の関係者らは「とても光栄なこと」と喜びの声を上げた。
1978年から同ゴルフ場で働き、93年から約20年間グリーンキーパーの貴任者を務めた本家保治さん(67)は「大村さんはゴルフ好きと聞いた。川奈ゴルフ場でプレーしたことが大発見につながったのであればうれしい」と声を弾ませた。
研究に厳しく「偉大」 美食家の」面も
ノーベル医学生理学賞を受賞した北里大特別栄誉教授の大村智氏(80)は2007年と13年に静岡市駿河区の県立大で特別講義を行った。20年来の付き合いがあり、大村氏を大学に招いた県立大薬学部の菅敏幸教授(医薬品製造化学)は「とても偉大」と敬意を表した。
菅教授によると、13年の講義で大村氏は教職員や学生約180人を前に、今回の受賞につながった研究内容について、最新データを示しながら分かりやすく解説した。講義後、「ノーベル賞受賞という悲願を達成してください」と声を掛けたら笑顔が返ってきたと、菅教授は振り返る。
研究に対してはまじめで厳しい一方、美食家で、学生や教員と一緒に酒を飲みに行くことを好む気さくさを持ち合わせていたという。
ほろ酔い気分で細菌学者の北里柴三郎や野口英世について、「今ならノーベル賞が取れた」と熱く語ることもあった。菅教授はそう思い返しながら、大村氏についても「もっと早く受賞してもいい研究だった」と力を込めた。
「誠実な人柄」 木苗県教育長

ノーベル医学生理学賞の受賞が決まった大村智・北里大特別栄誉教授(80)は2013年1月県▽天大学院で特別講義を行ったことがあり、当時の学長だった木苗直秀県教育長は5日、「大村氏は誠実な人柄。世界的にも有用な研究で、近いうちに受賞すると思っていた。受賞を祝福したい」と語った。
大村氏は「天然物有機化学の研究40余年」と題した特別講義で、抗寄生虫薬イベルメクチンの開発などについて解説し、当時の木苗学長や学生、教職員と意見交換した。
【静新平成27年10月6日(火)朝刊】

医学生理学賞 熱帯病特効薬を開発
伊東で発見 微生物から生成
【大村智氏(おおむら・さとし)1935年7月12日、山梨県韮崎市生まれ。山梨大を卒業後、都立墨田工業高定時制で5年間教師を務めた。東京理科大大学院修士課程を経て、63年に山梨大助手。東京大で薬学博士、東京理科大で理学博士を取得し、75年に北里大教授。2001年に北里生命科学研究所長、07年に名誉教授、13年に北里大特別栄誉教授。1989年上原賞、97年コッホ・ゴールドメダル、2014年カナダ・ガードナー賞の国際保健賞など受賞。文化功労者、80歳。(共同)】
【ストックホルム共同】スウェーデンのカロリンスカ研究所は5日、2015年のノーベル医学生理学賞を、アフリカなどで寄生虫が引き起こす熱帯感染症に大きな治療効果を挙げた特効薬を開発した大村智.北里大特別栄誉教授(80)ら3人に授与すると発表した。途上国を中心に年間3億人に投与され、人命を救う薬の発見が最高の栄誉に輝いた。
日本人のノーベル賞受賞は2年運続で23人目。医学生理学賞は12年の山中伸弥京都大教授(53)以来となる3人目の快挙で、日本オリジナルの研究成果が高く評価された。
大村氏は共同通信の電話インタビューに「微生物のすごい能力を何とか引き出そうとしてきた。何か一つでも人のためになることができないか、いつも考えてきた」と喜びを語った。
受賞が決まったのは大村氏と米ドリュー大のウィリアム・キャンベル博士、中国中医科学院の屠ゆうゆう博士の計3人。大村氏とキャンベル氏は同じテーマの共同受賞で、屠氏は抗マラリア薬の発見が授賞理由となった。
大村氏は、伊東市のゴルフ場の土壌で見つけた細菌の作り出す物質が、寄生虫に効果があることを発見。1973年から米製薬大手メルクと共同研究し、その物質をもとに薬剤「イベルメクチン」を開発した。
この薬は、重症の場合に失明することもある熱帯病のオンコセルカ症(河川盲目症)や、リンパ系フィラリア症(象皮症)の特効薬となり年間3億人が使用。世界保健機関(WHO)は、2020年代にいずれも撲滅できると見込んでいる。
日本でもダニが原因の疥癬(かいせん)症や、沖縄に多い糞(ふん)線虫症などの治療に威力を発揮している。
授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金800万クローナ(約1億2千万円)の半分が屠氏に贈られ、もう半分を大村氏とキャンベル氏が分ける。
貧しい人々失明から救う
世界の保健衛生の向上
大村智・北里大特別栄誉教授(80)が見つけた化学物質をもとにした抗寄生虫薬「イベルメクチン」は、アフリカや南アジア、中南米などで寄生虫による失明の危機におびえる人々を救った。最も貧しい地域の人々に「革命的な治療法」をもたらし、世界の保健衛生を向上たらしに大きく貢献した。
失明をもたらすこともあるオンコセルカ症(河川盲目症)は、ブユなどが媒介するミクロフィラリアという寄生虫が原因だ。大村さんはこの寄生虫を殺す化学物質をつくる微生物を、伊東市にあるゴルフ場の土の中から見つけた。
1㌘の土には1億種類を超える微生物がいるとされる。大村さんは「ほしい物質をつくる微生物が必ずいる」との信念で数千もの微生物コロニーを培養。共同受賞が決まったウィリアム・キャンベル博士が、製薬大手メルクで有望物質を抽出し、特効薬が開発された。
年1回飲むだけで効く手軽さも手伝い、オンコセルカ症は2020年代に撲滅される見通しだ。皮膚が硬く変形するリンパ系フィラリア症(象皮症)や皮膚の病気の疥癬(かいせん)など、寄生虫が原因となる多くの病気に有効。年間3億人が服用しているとの試算もある。大村さんは微生物がつくる有用な化学物質を500種類近く発見。20種類以上が薬などとして使われている。
大自在
「ほしい物質を作る微定物が必ずどこかにいる」。常にこのことが頭にあったのだろう。30代で当時、北里研究所の研究員だった北里大特別栄誉教授の大村智さん(80)は、伊東市の名門ゴルフ場川奈ホテルGCの近くから採取した土を、研究室に持ち帰った▼1974年、この土から寄生虫に効果がありそうな化学物質を作る微生物が見つかった。共同研究相手の米薬品大手の動物実験で、物質の効果が裏付けられた。これをもとに動物用の抗寄生虫薬「イベルメクチン」が開発され、世界的ヒット商品となる▼さらにアフリカや中南米の人々が失明する大きな要因だった熱帯病「オンコセルカ症」にも有効と判明した。年に1回飲むだけで効く。他の病気と合わせると年間3億人がこの薬を服用しているとの試算もあるそうだ▼スウェーデン・カロリンスカ研究所は、2015年のノーベル医学生理学賞を大村さんに授与すると発表した。日本人の医学生理学賞は12年の山中伸弥京都大教授以来3人目。日本オリジナルの研究成果が今回も高く評価された▼高校教諭から研究者となった。都内の工業高校定時制で、手に油を付けたまま授業を受ける生徒を見て心を動かされ、昼と土日は大学院で学び研究の面白さに引き込まれたという▼発見、命名した476種類の化学物質は、頭文字がAからZまでそろう。26種類が薬などとして使われる。特許は国内外250件以上。「自分が偉い仕事をしたとは思っていない」。すべて微生物がやっただけと会見ではにかむ。こん姿もまた誇らしい。(2015・10・6)
伊東の土、栄誉の礎

「微生物の力を借りているだけ。私が賞をもらっていいものか」。ノーベル医学生理学賞受賞が決まった北里大特別栄誉教授大村智さん(80)は5日午後8時半ごろ、東京都港区の北里大で記者会見。総立ちの学生から大きな拍手が起こり、フラッシュを浴びると「こんな賞をいただいていいのかな」とはにかんだ笑顔を見せた。
「微生物の力」強調
異能の人、謙虚に喜び
威張らず、声を張り上げず、謙虚な人柄を感じさせる静かな語り口。「微生物が:」「先輩たちが」と何度も感謝を表した。明るいグレーの上着にネクタイ、細い金縁の眼鏡。なかなか緊張がほぐれず、マイクを手に「初めてなのでどうしていいのか分からない」とつぶやくと、ようやく笑顔になった。
受賞決定の知らせは予想外だったようだ。午後4時半には帰宅する予定だったが、秘書が帰ろうとしない。「予感がしたのか、待つように言われた」ところに、スウェーデンからの国際電話が鳴つたという。最初に報告した。人を問われると「心では今はなき家内。研究者として一番大変なときに支えてくれた」と答えた。長女の育代さん(42)には「びっくりした。まさか取れると思っていなかった」と電話で報告したという。喜びを語るうちに表情が緩み、口調も滑らかになった。
自分の研究人生を「何か役に立つことはないかと絶えず考え、人の役に立つことをやりたいと思っていた」と振り返る。「めちゃくちゃ本を読んだ。全体の流れをいつもつかんで研究を進めた」と自負ものぞかせた。
土採取から特効薬
寄生虫が原因の熱帯病の特効薬となる物質「エバーメクチン」を作り出す微生物がいたのは、伊東市川奈のゴルフ場で採取した土の中だった。「年間2千~3千株もの土を採取する」という大村智・北里大特別栄誉教授は会見で「いつでも土が.採取できるよう、今でも財布の中にはビニール袋がある」と"臨戦態勢"を強調した。
仲間と訪れたそのゴルフ場で土を採取したのは1970年代の半ば。研究を重ね、エバーメクチンの発見.開発に至ったのは土の採取から約5年後だった。採取、培養、分析の繰り返しという地道な作業が実を結んだ。
膨大な作業は、「1人でできる研究ではない」。仲間に恵まれて一いた環境に大村教授は感謝の言葉を繰り返した。
「とても光栄」
ゴルフ場関係者
伊東市の川奈ゴルフ場の土壌で見つかった細菌からの発見が、大村智氏のノーベル賞受賞につながり、同ゴルフ場の関係者らは「とても光栄なこと」と喜びの声を上げた。
1978年から同ゴルフ場で働き、93年から約20年間グリーンキーパーの貴任者を務めた本家保治さん(67)は「大村さんはゴルフ好きと聞いた。川奈ゴルフ場でプレーしたことが大発見につながったのであればうれしい」と声を弾ませた。
研究に厳しく「偉大」 美食家の」面も
ノーベル医学生理学賞を受賞した北里大特別栄誉教授の大村智氏(80)は2007年と13年に静岡市駿河区の県立大で特別講義を行った。20年来の付き合いがあり、大村氏を大学に招いた県立大薬学部の菅敏幸教授(医薬品製造化学)は「とても偉大」と敬意を表した。
菅教授によると、13年の講義で大村氏は教職員や学生約180人を前に、今回の受賞につながった研究内容について、最新データを示しながら分かりやすく解説した。講義後、「ノーベル賞受賞という悲願を達成してください」と声を掛けたら笑顔が返ってきたと、菅教授は振り返る。
研究に対してはまじめで厳しい一方、美食家で、学生や教員と一緒に酒を飲みに行くことを好む気さくさを持ち合わせていたという。
ほろ酔い気分で細菌学者の北里柴三郎や野口英世について、「今ならノーベル賞が取れた」と熱く語ることもあった。菅教授はそう思い返しながら、大村氏についても「もっと早く受賞してもいい研究だった」と力を込めた。
「誠実な人柄」 木苗県教育長

ノーベル医学生理学賞の受賞が決まった大村智・北里大特別栄誉教授(80)は2013年1月県▽天大学院で特別講義を行ったことがあり、当時の学長だった木苗直秀県教育長は5日、「大村氏は誠実な人柄。世界的にも有用な研究で、近いうちに受賞すると思っていた。受賞を祝福したい」と語った。
大村氏は「天然物有機化学の研究40余年」と題した特別講義で、抗寄生虫薬イベルメクチンの開発などについて解説し、当時の木苗学長や学生、教職員と意見交換した。
【静新平成27年10月6日(火)朝刊】