2023年02月09日

2月9日の記事

大本山貫首の任期満了控え
 光長寺原井日鳳師が退蔵前の心境原井日鳳師

 法華宗大本山光長寺第七十九世貫首の原井日鳳師=写真=が5年の任期満了に伴い、今月15日に退蔵する。
 光長寺は法華宗四大本山のひとつで、他に鷲山寺(千葉県茂原市)、本能寺(京都市)、本興寺(兵庫県尼崎市)の大本山があり、宗門全体で約500の寺を擁している。
 光長寺と聞けば、沼津人にとっては、五カ坊がある大きな寺、というだけでなく、鎮守の森や桜の名所としてなじみ深い。
 原井師は現在78歳。青野にある妙泉寺の第33代住職でもある。同寺の次男に生まれ早大でアメリカ海運を研究。大手海運会社に就職し、サラリーマン人生を送るはずだった。ところが先代住職の父親が突然病に伏したことで、教職の道に進む決意の固かった兄と話し合った末、自分で考え、自分で話すことのできる稀有な道を選ぶのもいいのでは」と寺の承継を決意。法華宗興隆学林で修行の後、28歳で住職に。
 ところが昭和49年の七タ豪雨で本堂が被害を被り、庫裡が沈下、その再建に奔走することに。若輩の身で寺の役員や檀家の理解を得るのは困難を極めたが、原井家伝来の刀など財産を明らかにし、それを寺の再建に注ぎ込む覚悟を伝え、本堂が上棟式の運びになると、「途端に風向きが変わった」。
 「この住職のもとで、できるかも」という機運が高まり、再建に向けた檀家からの浄財も多く寄せられ、55年、本堂の上棟がかなった。
 その間も、原井師は自寺や光長寺の古文書をひもとき、史実を詳らかにしていくことに熱中。特に光長寺日法・日朝聖人の研究に没頭した。
 平成9年、法華宗事務方トップの宗務総長に就任。菩薩行研究所を設立し、仏教を通して人のために出来ることを探った。部長職も含めると12年にわたって法華宗を総括する立場にあった。
 平成29年には大本山光長寺貫首に就くとともに法華宗宗門の管長に就任。仏教が何をしているのかを広く世の中に発信することの重要性を唱え、仏教が世の中に機能しているか?を常に問い続けていた原井師。釈迦の教えを伝え、長い歴史に育まれた寺を護りつつ世間との溝を埋めようと努めてきた。
 これまでを振り返る日々を送る中で退蔵前の心境を原井師に尋ねた。
 少子化、核家族化だけでなく、さまざまな要因で、信仰心が薄れつつある昨今、寺は今後、社会環境の変化で2割程減る、とも言われている。その要因のひとつに信仰や僧侶の在り方がある、と捉えている。「檀家と共に寺を守るのもひとつだが、世間の人より坊さんの方が遅れている、と感じることも多々ある。たとえ教義が正しいからと言って、これまで通りで良しとしたのでは、本来の仏教のあるべき姿から、どんどん遠のいてしまうのでは。目線を一般の人に揃えて、僧侶という立場に決して胡座(あぐら)をかいていては駄目。世の中が抱えている不条理に仏教がしっかりと立ち合わなければ」「世の中と空回りしているようでは仏教を人のため活用する仲立ちである僧侶として、世の人に尽くすことなどできない」と危機感を募らせる。
 コロナ禍に翻弄されつつも「宗祖日蓮大聖人御聖誕八百年」と「大本山光長寺開創七百五十年」を記念した大法要を厳修した。その都度、縁の下で支えてくれた同寺の総代、世話人、八品講、婦人部組織の妙光会の信徒の協力に深く感謝した。
 在任中、祖師堂を始め御廟所の改修と発掘調査など大本尊を護持するための事業が進められた。祖師堂の障壁画は中嶌虎威画伯によって制作され、日法聖人御廟所出土品の自然科学分析調査の報告書をまとめた本も刊行された。
 貫首は常に、日本だけでなく世界情勢や地球環境に至るまで気にかけてきた。それらが抱える問題に共通するのは人間の利益優先の欲望だとし、人の心や環境を壊してしまったことを痛感。菩薩行を以て命を大切にする「蘇生」の必要性を説き続けている。
 特に環境に関しては「なあなあの共生では、もう間に合わない」とした上で「だからこそ心が蘇る行動を」とキッパリ。原発、戦争、差別などの問題に立ち向かうには煩悩を、人に尽くす力に転換する意識が大切、とした。
 在任中、檀信徒の意見も採り入れながら世の中ヘの発信に力を注いできた。「人との交流はうれしいものだった」と振り返り、「人の命を大切にする」という一筋の寂光がひとりひとりに射し込むことを願っている。
 句集『蘇生』より
 樹上に蝉 叢(くさむら)に虫 世に妄語
 絶対の 矛盾を生きる 彼岸道
 花に風 時は命と今を生く
 蔦の青 修羅のプリズム 透かし見る
 秋海棠「蘇生」は未来を紡ぐべし
【沼朝令和5年2月9日(木)号】

  

Posted by パイプ親父 at 06:55Comments(0)