2008年02月18日

三条西実隆

三条西実隆
源氏物語千年:島内景二
鋭く深い鑑賞力、三条西実隆
三条西実隆昨年末に出光美術館(東京・丸の内)で見た「乾山の芸術と光琳」は、名品ぞろいだった。中でも、尾形乾山(一六六三~一七四三年)が三条西実隆(一四五五~一五三七年)の和歌にヒントを得て描いた「花籠図」(重要又化財)は、見事なものだった。
三条西実隆は宗祇から古今伝授を受け、源氏物語の第一人者となった。実隆の子も孫も、一流の源氏学者としての業績を残し、「源氏学の家元」の観があった。
三条西家は、香道の「御家流」(おいえりゆう)家元でもある。江戸時代の香道は、「源氏香」という遊びを洗練させてゆく。実隆も、一条兼良や宗祇と同じく、乱世を生きた。
皮肉なことに、日本文化の最大の危機だった戦国時代に、源氏研究は飛躍的に進んだのだ。
危機の時代にこそ批評精神が育ち、研究は進展し、その成果が多くの人々にも恩恵を及ぼす。ちょうど、近代に入って外国語に堪能な教養人ですら九百年前の源氏物語が難解になった時代に、与謝野晶子が「口語訳」という画期的な"治療薬"を発明したように。
今年は、源氏物語千年紀だが、浮かれてばかりもいられない。この物語を、IT社会にふさわしいスタイルで一般読書人に手渡すための独創的なアイデアが、必要とされている。それには、三条西実隆ら先人の努力を参考にすべきだろう。
さて実隆の源氏研究のオリジナリティーは、「鑑賞」の鋭さと深さにあった。既に、この物語で用いられている語句、およびその出典、モデル、文脈、思想については、突き詰められていた。実隆はそれを踏まえ、一つ一つの文章に込められた作中人物と作者の思いをじっくり味わった。
芸術作品の生命に到達するためには、研ぎ澄まされた鑑賞力が必要とされる。光源氏や紫の上が抱いた巨大な悲哀感を、読者が自分の心に引き受けねば、源氏物語を読んだことにはならない。
粗筋をたどることに気を取られず、作品の進行を停止させて立ち止まる。登場人物の時間と心理を共有する。それに成功した読者は、登場人物の叫びや、作者のメッセージを明瞭(めいりよう)に聞き取れる。このような読み方を教えてくれたのが、実隆だった。(電気通信大教授)
(静新平成20年2月18日「命をつないだ人々」)


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Posted by パイプ親父 at 10:48│Comments(0)歴史上の人物
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