2008年10月07日

ノーベル物理学賞「小林誠・益川敏英理論」

【ノーベル物理学賞】素粒子物理学の世界に金字塔「小林・益川理論」
2008.10.7 20:28(msn産経ニュース)


 ノーベル物理学賞に輝いた高エネルギー加速器研究機構の小林誠名誉教授(64)と京都大の益川敏英名誉教授(68)は、物質の究極の姿を理論的に解明し、宇宙の成り立ちに明確な根拠を与えた。6種類のクオークを予言した先見性と独創性は国際的に高く評価され、素粒子物理学の世界に金字塔を築いた。(長内洋介)
ノーベル物理学賞「小林誠・益川敏英理論」益川敏英名誉教授
ノーベル物理学賞「小林誠・益川敏英理論」小林誠名誉教授


 物質は原子が集まってできている。原子は中心部に原子核、その周囲に電子がある。原子核は陽子と中性子に分けられ、これらはさらに小さい「クオーク」という複数の粒子でできている。
 クオークのように、これ以上細かくできない物質の最小粒子を「素粒子」という。素粒子にはクオークのほか、電子やニュートリノなどの「レプトン」と呼ばれるグループなどがある。
 こうした物質の基本構造は、1960年代に次第に明らかになった。しかし、当時はクオークが全部で何種類あるか分からず、さまざまな理論が提唱されては消えていく混沌の時代だった。

消えた「反粒子」
 当時の素粒子物理学は、もうひとつ未解決の難題を抱えていた。それは「反粒子」と呼ばれる奇妙な粒子が、宇宙からなぜ消えたのかという大問題だった。
 宇宙は約137億年前、ビッグバンと呼ばれる大爆発で誕生し、物質はその直後、大爆発のエネルギーが転化して生まれた。現在の宇宙の物質はクオークなどの粒子でできているが、宇宙誕生時には、粒子と質量が同じで、電荷が反対の「反粒子」も同じ数だけ生まれたとされる。
粒子と反粒子が出合うと光(エネルギー)に変化し、どちらも消滅してしまう関係にある。もし宇宙に今も反粒子がたくさんあれば、粒子でできている銀河や地球は消滅してしまう。ところが幸いなことに現在の宇宙に反粒子は見当たらない。
 その理由は、粒子と反粒子のわずかな性質の違いにある。反粒子は粒子よりも生き残る確率が低いため、次第に姿を消し、宇宙は粒子だけが生き残るように進化したのだ。この両者の性質の違いを「CP対称性の破れ」という。
 1964年、米国の物理学者らが中性K中間子の崩壊過程で、CP対称性の破れが実際に起きることを初めて発見した。しかし当時の世界の物理学者たちは、この現象がなぜ起きるのかを説明できなかった。

大胆に予言
 小林、益川両氏が1973年に発表した新理論は、素粒子物理学が直面していたこれらのパラドックスを解決に導く画期的なものだった。
 クオークは当時、「アップ」「ダウン」「ストレンジ」の3種類が発見されていたが、これだけではCP対称性の破れを説明できない。小林・益川理論は、6種類あれば対称性の破れが起きるとする「6元モデル」を初めて提唱。3種類しか見つかっていない時代に、大胆な予言だった。
 クオークは質量によって、「世代」と呼ばれる1対のペアに分類される。ペア同士は、ある条件下で相互に入れ替わる性質があり、例えば第1世代はアップとダウンが入れ替わる。この“変身”は異なる世代間でも可能だ。小林・益川理論は、変身が3世代にまたがって起きるとき、対称性が破れることを理論的に証明した。つまり、この世には3世代=6種類のクオークが存在すると結論付けたのだ。
小林・益川理論の予言は次々に的中した。発表翌年の74年に4番目のクオーク「チャーム」、77年に3世代目にあたる5番目の「ボトム」、95年には最後の「トップ」が発見され、6元モデルの正しさが実証された。その後の研究から、7番目のクオークは存在しないとみられている。
 一方、CP対称性の破れについて、小林・益川理論は中性K中間子の実験結果を矛盾なく説明することに成功。さらにB中間子でも破れが起きることが予言され、高エネ研と米スタンフォード線形加速器センターが検証実験を行った。2001年の分析結果では、B中間子の崩壊過程でも破れが起き、その測定結果は理論値とピタリと一致。理論の正しさは揺るぎないものとなった。
 小林・益川理論はクオークなどに働く「弱い力」と電磁気力を統一したワインバーグ・サラム理論、クオークの相互作用を支配する「量子色力学」とともに、素粒子論の基礎となる「標準理論」の骨格となった。

独創の系譜
 近年の素粒子研究は、標準理論の枠組みを超える未知の現象や、新粒子の発見を目指す次のステージへ移行しつつある。しかし、小林・益川理論は、現在でも素粒子分野の論文の被引用件数で世界の歴代2位を誇るなど、その学術的な価値は色あせていない。
 ワインバーグ・サラム理論は79年、中性K中間子での対称性の破れの発見は80年に、それぞれノーベル物理学賞を受賞。小林・益川理論は実証に約30年を要したが、近い将来の受賞が確実視されていた。
 小林、益川両氏が名古屋大時代に師事したのは、「坂田モデル」で知られる故坂田昌一博士。坂田氏は、故湯川秀樹博士の「中間子論」を支えた人物だ。小林、益川両氏の受賞からは、湯川博士以来、脈々と続いた日本の独創的な素粒子研究の系譜が読み取れる。


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Posted by パイプ親父 at 21:40│Comments(0)受賞
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