2009年04月16日
加藤幸雄氏
「市議会は何のために、誰のために」加藤幸雄
【加藤幸雄氏(かとう・ゆきお)沼津東高出身。一九七〇年、中央大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。全国市議会議長会事務局勤務。二〇〇二年、同事務局退職(調査広報部長)。現在、専修大学、流通経済大学講師。
著書に『新しい地方政治』(学陽書房)、『市町村議会の常識』(自治体研究社)、『議会基本条例の考え方』(同)、共著に『地方議会活性化ハンドブック』(ぎょうせい)、『自治体デモクラシー改革ー住民・首長・議会ー自治体改革5』(同)、『現代日本の地方自治』(敬文堂)など。】
地方議会の意義と役割
国会における議院内閣制とは異なり、地方議会は、アメリカで誕生し発達した大統領制である。市民は、議員だけでなく市長をも直接選挙することができる。このため、「二元代表制」とも言われる。そして、市議会には議院内閣制と異なり、与党、野党はない。強いて言うなら、存在するのは市長支持派、反市長支持派である。
地方議会におけるこの制度は、議会と市長を並列・対等関係に置き(機関対立型システム)、相互に抑制・均衡(チェック・アンド・バランス)させ、民主政治を実現するものである。極めて民主的な制度であると言われる。
その証拠に、「民主主義の母国」と言われるイギリスは、二〇〇〇年に地方自治法を改正し、我が国と同様に市民が市長を直接選挙する制度の導入が可能となり、多くの自治体がこの制度を導入している。
ところで、市議会の役割は、一つには、住民に義務を課し住民の権利を制限する条例、市長が行う行政に法的根拠を与える条例を制定すること(立法権)。
二つには、制度的にも優位な立場にあり、さらに日常、行政を執行する中で優位になりがちな市長を抑制・監視(チェック)し、より民主的な行政を実現することである(行政のチェック権)。
したがって、チェックする市議会(議員)は、
市長にいやがられ、嫌われることはあっても、好かれることはない。
三つには、市長が行う行政に財政的な根拠を与える予算を決定し、その行政の結果である決算を認定することである(財政権)。
特に、この機関対立型システムにおいて行政をチェックするには、議員個人、会派よりも「議会」としての役割が大きい。そして行政をチェックする最も主な方法は、「一般質問」である。
議会において、「質疑」は具体的な議案に対して疑義をただすことであり、自己の意見を表明することはできない。これに対して、「質問」(一般質問)は、市長の考え、意見、政策の方針をただすものであり、しかも自己の意見、考えを表明することができる。議員は市長とは異なる政策を提案でき、最近求められているのが、いわゆる「政策提案型議会」である。
市議会も「言論の府」であり、議員の活動は、自由な言論を中心に行われ、ことのほか言論は尊重される。そうでなければ、住民の意思を反映する市議会とはならない。議員は、基本的に他人の人権、他人のプライバシーを侵さない限り、なんでも発言できる。
そして一般質問において、議員が市長の政策をチェックするには、同じような政策の具体的な失敗事例を挙げることは、極めて説得力のある方法である。例えば、財政問題を質問する時に、財政破綻した夕張市(北海道)はよく引き合いに出される。
自由な言論こそ市議会の命
このたび沼津市議会の一般質問で、沼津駅の高架事業などにかかわり、具体的に分かりやすいように、と茂原市(千葉県)の茂原駅の高架、再開発ビルが失敗例として挙げられた。沼津市議会は、この発言の取り消しを決定する(したがって会議録には載らない)とともに、懲罰特別委員会を設置し、質問した議員を、茂原市を「誹謗中傷」したとして「戒告」処分にしている。
これは、民主主義を具現している市議会、「言論の府」たる市議会としては、なんとも理解できないことであり、市議会の自殺行為であると言える。
市議会における自由な言論は、市議会の命である。自由な言論を制約、統制すると、戦前の議会になってしまう。
そして市議会は誰のためにあるのか。市議会は議員のためにあるのではなく、主権者である市民のためにあるのである。市の政治、行政において市民が主人公である。
現代の議会制民主主義のもとでの市議会は、直接民主制の代替物とみなされる。このため、主権者である市民の意思を反映し、市民に開かれた市議会、市民から信頼される市議会が求められているのである。
今、全国の地方議会は、分権時代、自治の時代にふさわしい、活性化された議会になるため、多くの議会改革、すなわち議員条例案の立案、一般質問の対面方式化、一問一答方式化、市長の反問権、議会報告会などを実行し、さらには「議会基本条例」を制定し、さらなる議会改革を進めている。
市議会が本物にならなければ、民主主義の実現は難しいと言える。
(沼朝平成21年4月16日「寄稿」)
【加藤幸雄氏(かとう・ゆきお)沼津東高出身。一九七〇年、中央大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。全国市議会議長会事務局勤務。二〇〇二年、同事務局退職(調査広報部長)。現在、専修大学、流通経済大学講師。
著書に『新しい地方政治』(学陽書房)、『市町村議会の常識』(自治体研究社)、『議会基本条例の考え方』(同)、共著に『地方議会活性化ハンドブック』(ぎょうせい)、『自治体デモクラシー改革ー住民・首長・議会ー自治体改革5』(同)、『現代日本の地方自治』(敬文堂)など。】
地方議会の意義と役割
国会における議院内閣制とは異なり、地方議会は、アメリカで誕生し発達した大統領制である。市民は、議員だけでなく市長をも直接選挙することができる。このため、「二元代表制」とも言われる。そして、市議会には議院内閣制と異なり、与党、野党はない。強いて言うなら、存在するのは市長支持派、反市長支持派である。
地方議会におけるこの制度は、議会と市長を並列・対等関係に置き(機関対立型システム)、相互に抑制・均衡(チェック・アンド・バランス)させ、民主政治を実現するものである。極めて民主的な制度であると言われる。
その証拠に、「民主主義の母国」と言われるイギリスは、二〇〇〇年に地方自治法を改正し、我が国と同様に市民が市長を直接選挙する制度の導入が可能となり、多くの自治体がこの制度を導入している。
ところで、市議会の役割は、一つには、住民に義務を課し住民の権利を制限する条例、市長が行う行政に法的根拠を与える条例を制定すること(立法権)。
二つには、制度的にも優位な立場にあり、さらに日常、行政を執行する中で優位になりがちな市長を抑制・監視(チェック)し、より民主的な行政を実現することである(行政のチェック権)。
したがって、チェックする市議会(議員)は、
市長にいやがられ、嫌われることはあっても、好かれることはない。
三つには、市長が行う行政に財政的な根拠を与える予算を決定し、その行政の結果である決算を認定することである(財政権)。
特に、この機関対立型システムにおいて行政をチェックするには、議員個人、会派よりも「議会」としての役割が大きい。そして行政をチェックする最も主な方法は、「一般質問」である。
議会において、「質疑」は具体的な議案に対して疑義をただすことであり、自己の意見を表明することはできない。これに対して、「質問」(一般質問)は、市長の考え、意見、政策の方針をただすものであり、しかも自己の意見、考えを表明することができる。議員は市長とは異なる政策を提案でき、最近求められているのが、いわゆる「政策提案型議会」である。
市議会も「言論の府」であり、議員の活動は、自由な言論を中心に行われ、ことのほか言論は尊重される。そうでなければ、住民の意思を反映する市議会とはならない。議員は、基本的に他人の人権、他人のプライバシーを侵さない限り、なんでも発言できる。
そして一般質問において、議員が市長の政策をチェックするには、同じような政策の具体的な失敗事例を挙げることは、極めて説得力のある方法である。例えば、財政問題を質問する時に、財政破綻した夕張市(北海道)はよく引き合いに出される。
自由な言論こそ市議会の命
このたび沼津市議会の一般質問で、沼津駅の高架事業などにかかわり、具体的に分かりやすいように、と茂原市(千葉県)の茂原駅の高架、再開発ビルが失敗例として挙げられた。沼津市議会は、この発言の取り消しを決定する(したがって会議録には載らない)とともに、懲罰特別委員会を設置し、質問した議員を、茂原市を「誹謗中傷」したとして「戒告」処分にしている。
これは、民主主義を具現している市議会、「言論の府」たる市議会としては、なんとも理解できないことであり、市議会の自殺行為であると言える。
市議会における自由な言論は、市議会の命である。自由な言論を制約、統制すると、戦前の議会になってしまう。
そして市議会は誰のためにあるのか。市議会は議員のためにあるのではなく、主権者である市民のためにあるのである。市の政治、行政において市民が主人公である。
現代の議会制民主主義のもとでの市議会は、直接民主制の代替物とみなされる。このため、主権者である市民の意思を反映し、市民に開かれた市議会、市民から信頼される市議会が求められているのである。
今、全国の地方議会は、分権時代、自治の時代にふさわしい、活性化された議会になるため、多くの議会改革、すなわち議員条例案の立案、一般質問の対面方式化、一問一答方式化、市長の反問権、議会報告会などを実行し、さらには「議会基本条例」を制定し、さらなる議会改革を進めている。
市議会が本物にならなければ、民主主義の実現は難しいと言える。
(沼朝平成21年4月16日「寄稿」)
Posted by パイプ親父 at 13:48│Comments(0)
│政治