2015年10月08日

梶田隆章氏ノーベル賞:物理学賞

梶田隆章氏ノーベル賞:物理学賞
 ニュートリノ質量発見
 故戸塚氏(富士出身)と研究

梶田隆章
【梶田隆章氏(がじた・たかあき)1959年3月9日、埼玉県生まれ。県立川越高、埼玉大卒。81年、東京大大学院の小柴昌俊氏の研究室に進み、カミオカンデ実験に加わった。86年大学院博士課程修了。東京大理学部助手、東京大宇宙線研究所の助手、助教授を経て99年教授。スーパーカミオカンデの建設に携わり、観測時はデータ解析責任者として日米の研究者を率いた。98年6月、岐阜県高山市の国際会議で「ニュートリノ振動の発見」を発表した。08年4月から東京大宇宙線研究所所長。99年仁科記念賞。56歳。(共同)】
 【ストックホルム共同】スウェーデンの王立科学アカデミーは6日、2015年のノーベル物理学賞を、重さがないと考えられていた素粒子「ニュートリノ」に質量があることを見つけた梶田隆章・東京大宇宙線研究所長(56)ら2人に授与すると発表した。宇宙の謎に挑んだ日本のニュートリノ研究が最高の栄誉に輝いた。5日に医学生理学賞に決まった大村智北里大特別栄誉教授(80)に続く連日の受賞。
 日本人連日の受賞
 梶田氏らの発見は、宇宙の成り立ちを説明する長年の理論に修正を迫る歴史的な成果とされている。梶田氏はノーベル財団との電話インタビューで「本当に驚いている。信じられない」と話した。
 日本人受賞者は、計24人となる。物理学賞は、青色発光ダイオード(LED)を開発した天野浩名古屋大教授(55)=浜松市出身=ら3人が独占した昨年からの連続受賞で、日本の物理学の実力を示す快挙。梶田氏は、02年に物理学賞を受賞した小柴昌俊東京大特別栄誉教授(89)の教え子で、一つの研究チームから2度の受賞は日本で初めて。梶田氏は、富士市出身の研究者、故戸塚洋二氏とともに研究していた。
 ニュートリノは、宇宙に存在する最も基本的な粒子の一つで、どんな物質もすり抜けるため謎が多い。梶田氏は岐阜県飛騨市の観測装置スーパーカミオカ.ンデで、地球の大気で生じる「大気ニュートリノ」を観測。「ミュー型」という種類の二ュートリノが飛行中に「タウン型」に変身する振動という現象を見つけ1998年に発表。振動現象はニュートリノに質量がある証拠とされる。
 同時受賞は、カナダの鉱山の地下で同様の実験をしたカナダ・クイーンズ大のアーサー・マクドナルド名誉教授(72)。

うちゅうの謎 新たなドワ開く
 宇宙の成り立ちに大きな影響を与えたとされる素粒子ニュートリノは、どんな物質もすり抜けるため「幽霊粒子」と呼ばれる。私たちは実感できないが、地球上でも大量のニュートリノが常に体を通り抜けている。身の回りにあるのに観測は難しく、一時は光より速いという実験結果があったほど謎が多い。ニュートリノが質量を持つとの発見は宇宙の謎に新たな扉を開いた。
 小柴昌俊さんが超新星爆発で出たニュートリノを初めて検出して開拓した研究分野を、梶田隆章さんらがさらに発展させ、幽霊粒子の正体に迫った。
 ニュートリノには「電子型」「ミュー型」「タウ型」と3種類ある。梶田さんが見つけたのは、ニュートリノが飛んでいる間に別の種類に変身してしまう「振動」という不思議な現象だ。変身するのは質量を持つ証拠とされる。
 ニュートリノはスイスの理論物理学者が1930年に存在を予言したが、50年代まで見つからなかった。質量もゼロと考えられていた。宇宙には膨大な量のニ・ユートリノが存在するため、質量があれば大きな引
力が発生し、宇宙の膨張にブレーキをかけるかもしれない。宇宙を満たす「暗黒物質」の正体である可能性も取り沙汰され、梶田さんらの発見は反響を呼んだ。

指導者に恵まれ花開く
 小柴さんに続く栄誉
 ノーベル物理学賞に決まった梶田隆章さんは、2002年に同賞を受賞した小柴昌俊東京大特別栄誉教授(89)の門下生。小柴さんや後継者の戸塚洋二さん(08年に死去)ら指導者に恵まれ、地道で粘り強い「実験屋」の才能が花開いた。
 小柴さんは「梶田は大学院生のころから詳しく調べ、スーパーカミオカンデでもずっと1人で続けていた。戸塚という良いボスに応援され、ニュートリノ振動の発見に最大の寄与をした」と教え子の業績をたたえる。
「あまり目立たな静かな子どもだった。クラスのリーダーはやりたくないというタイプ」と言う梶田さん。物理に興味を持ち始めたのは高校時代で、自然法則をシンプルに「きれいな式で表せることが魅力だった」と振り返る。
 埼玉大では「あまりまじめに勉強する方じゃなかった」が「素粒子の実験的な研究をしたい」と、東大大学院の小柴研究室のドアをたたいた。このころニュートリノ観測装置「カミオカンデ」は試作段階。研究室の紹介資料にも書いておらず、梶田さんはニュートリノの存在自体を知らなかった。
 指導を受けた小柴さんのことを「若いときはもっと怖かったそうだが、やはり怖かった。研究について妥協しない。先生が駄目だと言うものは考えを曲げてもらえなかった」と話す。
 ニュートリノの観測データに「振動」の兆候が表れていることに気付き1988年に論文を発表したが「計算が間違っているのでは」と冷たい意見も聞こえた。10年間かけて検証を重ね、間違いないとの確証を得た。「跳びはねはしないが、それに近い感動だった」と、控えめに振り返る。
 98年、岐阜県高山市で開かれた国際会議で「振動の証拠」と発表。万雷の拍手でたたえられた。100人を超えるスーパーカミオカンデの研究チームを強力なリーダーシップで率いた戸塚さんは、発表を梶田さんに任せた。「一言『やれ』と。ありがたかった」
 梶田さんは10年、小柴さんが弟子の死を惜しんで創設した「戸塚洋二賞」を受賞した。
 「戸塚先生の名前を付けた賞をもらえたのは特別なこと」と話す。そこにノーベル賞という世界最高の栄誉が加わった。


 弟子の快挙に「よかった」
 梶田隆章さんの恩師で、2002年にノーヘル物理学賞を受賞した東京大特別栄誉教授
小柴昌俊さんは6日、東京都内の自宅で梶田さんから電話でノーベル物理学賞受賞決定の報告を受け、「おめでとう、よかったね。いずれはもらうと思っていたけど」とたたえた。
 梶田さんからの電話は、スウェーデンの王立科学アカデミーの発表直後の午後6時50分ごろ。梶田さんはうれしそうな様子だったといい、小柴さんは「最初に知らせてきたんでしょう」と弟子の快挙を喜んだ。梶田さんについて、小柴さんは「私が始めたヵミオカンデの実験に、最初から飛び込んできた」と、振り返った。
 小柴さんの弟子には、梶田さんの先輩に当たる戸塚洋二さんがいた。小柴さんは戸塚さんについて間われると「死んじゃったから、どうこう言つてもしょうがないじゃない」と言葉少なだった。
 カミオカンデの研究仲間も喜び
 梶田隆章さんが研究に取り組み、素粒子「ニユートリノ」に質量があることを見つけた観測装置スーパーカミオカンデ。岐阜県飛騨市の施設では、研究仲間らが「やったー」「待ちに待った受賞だ」と喜びを爆発させた。
 施設の会議室には約20人が集まり、受賞者発表の様子を映したモニターを見入った。梶田さんの名前が読み上げられると驚きの声が上がり、すぐに祝福ムードに。全員で万歳三唱した。
 大学院時代から梶田さんと研究し、カミオカンデの建設にも一緒に携わった東京大宇宙線研究所の中畑雅行教授(56)は「頭の回転が速く、自分も非常に学ぶことが多かった。ノーベル賞に匹敵する研究だと分かっていた」と喜びを隠しきれない様子。関谷洋之助教(38)は「過去数年間、受賞が期待されて肩すかしを食らってきた分、大変うれしい。一層モチベーションを上げて、宇宙の始まりに迫る研究に取り組んでいきたい」と興奮気味に話した。

「戸塚先生功績大きい」
 ノーベル賞 梶田さん笑顔の会見
 戸惑いながらも喜び
 この世界は何でできているのか。宇宙を飛び回る小さな素粒子「ニュートリノ」を調べ、謎に迫った梶田隆章・東京大宇宙線研究所長(56)に6日、ノーベル物理学賞の知らせが届いた。「頭が真っ白」と笑顔を見せつつ、亡くなった先輩研究者をたたえた梶田さん。前日の医学生理学賞に続く快挙に、各地で祝福の声が上がった。
 午後8時半すぎ、東京都文京区の東京大本郷キャンパスで始まった記者会見。カメラのフラッシュが続く中、梶田さんは戸惑いながらも笑顔を見せ、ニュートリノ研究を「人類の知の地平線を拡大するような分野」と表現した。
 黒っぽいスーツに水色のネクタイを着けた梶田さんは安倍晋三首相からの電話を受けながら会見場に現れた。「何を話していいか分からない状況」と戸惑いつつ、妻に受賞を報告したと明かした。
 ニュートリノの質量を捉えた観測装置「スーパーカミオカンデ」では、故戸塚洋二・元高エネルギー加速器研究機構長=富士市出身=と苦労を共にした。梶田さんは、戸塚さんが共同受賞者にふさわしいと高く評価。「戸塚先生のお力があったので(スーパーカミオカンデを)建設できた。功績は大きい」とたたえた。
 一番苦しかった出来事を問われると、2001年にスーパーカミオカンデで起きた事故を挙げ、「本当にショックを受けた」と明かした。そのときも、戸塚さんのリーダーシップで乗り越えたと振り返った。
 「気さくで緻密な人」
 県内関係者、快挙祝福
 梶田隆章さんの共同実験グループの一員、静岡福祉大の岡沢裕子教授(宇宙線物理学)によると、梶田さんは気さくさと緻密さを備えた人。「実験が思うように進まない時、一緒にたこ焼き屋でも始めようか、とユーモアを交えて励ましてくれた」と振り返り、「厳しい目で根気よく問題解決される方」とたたえた。
 2009年、梶田さんは焼津市のディスカバリーパーク焼津・天文科学館が開催したニュートリノ企画展に協力した。同館事務長だった池ケ谷憲司さん(61)は「ニュートリノのような日の当たらない世界を子供たちに紹介させてもらい、ありがたい、と言ってくれたことを覚えている」。
 富士市出身の物理学者戸塚洋二氏=享年66歳=の兄、戸塚一さん(84=同市富士岡=は自宅で梶田さんの受賞を知った。「突然テレビで洋二の名前も出て驚いた。本人の受賞はかなわなかったが、後継者が研究を続けてくれて弟も喜んでいると思う。証明してくれた梶田さんに、おめでとうと言いたい」と話した。
【静新平成27年10月7日(水)朝刊】


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Posted by パイプ親父 at 12:51│Comments(0)素晴らしい
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