2008年04月29日

資生堂名誉会長・福原義春氏

【わが道わが友】資生堂名誉会長・福原義春氏(1)
2008.4.29 03:38(産経MSNニュース)

このニュースのトピックス:財界
資生堂名誉会長・福原義春氏 ■美術館運営に生きた民間の知恵

 平成12年10月の東京都写真美術館館長就任は、降って沸いた話だった。ダイエーの中内功さんやJR東日本の松田昌士(まさたけ)さんらを中心とした朝食会のあと、アサヒビールの樋口廣太郎(ひろたろう)さんに呼び止められ、急逝した徳間書店の徳間康快(やすよし)さんの後任館長を打診された。石原慎太郎都知事の文化顧問役だった樋口さんは、わりあい近くにいた私に白羽の矢を立てたのだろう。

 もっとも樋口さんは、私の伯父、信三が日本近代写真を確立した写真家だったことや、私自身も大学時代にカメラクラブに所属して著書もあることなどご存じない。樋口さんに「ええまあ」とあいまいな返答をした直後、石原知事から直接電話があった。「まだ心を決めたわけではない」と言う私に、石原さんは「じゃあ、自分が案内する」と、大勢のお供を従えた現場視察となった。階段を上る途中で大勢のギャラリーを前に石原さんは振り返り、「君、もう断るとは言わないよな」。直後の都知事定例会見で内定発表された。

 翌日美術館に行くと、いわば落下傘館長で、しかも現在の写真界では知られていない現職経営者。職員はみんな自分の仕事に精いっぱいで、誰もこちらを振り向かずに知らん顔。翌年度計画も予算も既決していて手も出せない。総勢30人ほどの小組織なのに、来館者への温かさも感じられなかった。

 「これは大変」と思いながら、まず館内の会議を招集してもらって美術館のコンセプトを明確にすることにした。初年度は、館内の静寂さを逆手に「静かなにぎわい」。翌年度は、「写真とは何か」。私は会社でもあまり命令はしない。ビジョンを示し続けるのだ。そして、マスコミの取材などを通じ、美術館のスタッフを褒め、足りないところを訴えた。また、次の展覧会で悩んでいる学芸員に直接電話をしたり、FAXを送って質問したり、アドバイスしたりした。こうして縦型組織の弊害を壊した。

 結果、年間約20万人に満たなかった来館者は、就任2年後には約36万人。その後40万人台に。補助金は半分に減っているのにだ。ときには来場者が列をなして来館するので、芸術至上主義だったスタッフも面白くなって、今ではかなり自主的な取り組みができるようになった。

 「官は非効率で民は効率的だ」というのは間違い。官の人たちは用意周到に根回しをし、条例を調べて仕事にかかるので成功率は高い。しかしそのために時間がかかりすぎる。適切な理念と目標を与えるなら、官は民間企業の社員よりも、きめ細かで水準の高い仕事をするというのが私の感想だ。民間企業での経験といくつもの非営利組織にかかわって得た知恵が、公的な美術館経営の人材活用にも応用できることを、私自身も学んだのだった。

                   ◇

【プロフィル】福原義春

 ふくはら・よしはる 昭和6年、東京生まれ。慶大経卒。28年資生堂入社。中国進出などで海外市場拡大戦略を推進。62年、社長、平成9年、会長を経て、13年から現職。


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Posted by パイプ親父 at 11:17│Comments(0)人物
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